17.学校さぼって寄席通い。そして、中退

<長谷川>中学はどちらへ?
<芦州> あのね、それで、小学校六年が了(おわ)って、それから下谷の商業学校へ。本当はウチの親父(おやじ)は、何でか知らねえけど、府立を受けさせたかったんだ。府立一中とかさ―今の日比谷高校だとかさ。ジョウダン云っちゃいけないってんだ!ねえ。タマ算だとか、簿記だとか、そんなの知りゃあしないよ。ワタシはね。そいで、一週間ぐらい通(い)ったかな、一週間か、半月は通(い)ってないですよ。うん。その時分ね、いまみたいに住宅じゃないの、みんな。空家札(あきやふだ)が貼ってあるのがいっぱいあるんですよ。と、そこのところへね、弁当だけはオフクロにこしらえてもらって、学校へ行くふりで、行ってまいります!って出ていくの。出ていって、そいでもって、空家(あきや)を見つけると塀を乗り越えていって、家の中に入って、カバンを部屋のなかに放(ぶ)ちこんで。そいで弁当だけもって寄席通いをしたの。そいで時間をみて帰る。その話親父は知らなかった。で母親が知って、学校へ行かないでどこへ行ってるんだと。どこへ行ってるって、寄席へ聞きに行ってる。親父がね、「寄席へ行くのはアレだけれども、学校へ行って、終わってから行くならまだいい[それが]学校にも行かないで」こっぴどくおこられましたよ。
<長谷川>すると学校の方は。
<芦州> 学問なんてひとつもしてないですよ<笑い>本当の話。一年も通わないうちにもう。退学ですよ。
<長谷川>退学?
<芦州> はっきりいや中途退学<笑い>。
<長谷川>こちらの都合じゃなくて。
<芦州> そうそう。向こうの<笑い>都合。
<長谷川>どのくらい行かれてたのですか?
<芦州> 中途退学だってね、何年か行ってね、そいで途中で止めたっていうんじゃねえんだ。行ってねえんだもん。そりゃネー五、六日は行きましたよ<笑い>。何をやるのか調べたいと<笑い>ネ。
(余滴)
「下谷商業学校」についていろいろ調べているが、存在していたか、現在謎である。現在の「東京都立台東商業高校」の前身と思えるが不明。
by koganei-rosyu | 2007-06-04 10:38 | 聞書き:自伝
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